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東京高等裁判所 平成9年(ネ)19号 判決

控訴人

竹入正一

外四名

右控訴人五名訴訟代理人弁護士

長谷川洋二

被控訴人

日動火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

相原隆

右訴訟代理人弁護士

川上眞足

高崎尚志

被控訴人

三井海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

井口武雄

右訴訟代理人弁護士

原田策司

井野直幸

小林ゆか

主文

一  控訴人らの被控訴人らに対する本件各控訴をそれぞれ棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人日動火災海上保険株式会社は控訴人竹入正一に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人三井海上火災保険株式会社は控訴人原チエに対し金一七〇〇万円、控訴人原真一郎、控訴人原功、控訴人原貴志に対し各金五六六万六六六六円、及び右各金員に対する平成三年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  被控訴人ら

主文第一項と同旨

第二  事案の概要並びに争点

原判決の事実及び理由「第二 事案の概要一 争いのない事実等、二、三争点は、本件事故が一郎にとって急激かつ偶然な外来の事故であったかである(全事件共通)」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  証拠

原審記録中の書証及び証人等目録並びに当審記録中の書証目録各記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

争点に対する判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決事実及び理由「第四争点に対する判断一ないし三」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二七頁七行目から八行目に「運転を誤って海中に飛び込んでしまい」とあるを「オートマチック車のブレーキとアクセルを踏み間違える等の自動車の運転操作を誤ったため、ないしは自動車の機能に異常が発生したことからその操縦が不能になったため、岸壁から海に転落したことから」と改める。

2  同二八頁四行目の「右各事実の中で」から同二九頁四行目に「そして、」とあるまでを削除する。

3  同二九頁四行目の「一郎は、」から同三〇頁五行目から六行目に「事情は記載されておらず」とあるまでを、「前記判示の各事実並びに甲一ないし第三号証、乙A第二一、同二二号証、同第二七号証、同第四〇号証、同第四二号証、証人橋本隆一の証言並びに弁論の全趣旨によれば、一郎は、以前タクシーの運転手をしていた経歴を有するなど自動車の運転の技量には優れていたものであって、しかも、本件事故当時運転していた自動車は日頃乗り慣れているものであったのであるから、通常の運転中にブレーキとアクセルを踏み間違えるなどの基本的運転操作を誤る可能性はほとんどあり得なかったこと、一郎は、観光客等を案内して中村旅館に度々宿泊したことがあったことから、本件事故現場付近の状況は良く知っていたこと、また、本件事故現場となった駐車場と網上場となっている広場は、ある程度の照明設備があるだけのため薄暗かったが、本件事故当時は月夜であったこともあって、自動車運転手には、その地形や構造物等の位置関係等や、どの方向に海がある等のことは、充分認識できた状態であったこと、一郎は、本件事故現場である右駐車場と右網上場のある広場に自動車を運転して進入してきた直後にいきなり直角に近い角度で右折し、そして減速することなく、むしろ加速したと見られる状態で、しかも岸壁から海への転落を防ぐための転把行為を全くすることもなく、かなりの高速度で網上場の岸壁をほぼ直角に超えて岸壁から約一〇メートル先の海面に突っ込んだものであること、本件事故後の調査によれば自動車には構造上、機能上の欠陥が存した徴表は発見できなかったことが認められるのであるから、右事故態様等からすると、本件事故は、一郎が自殺等の目的のために、故意に惹起したものであると推認することが相当である。

なお、控訴人らは、一郎は、前記右折後急ブレーキを踏んで自動車が海に転落するのを避けようとした行動を取った旨主張しているが、前掲証拠中の甲第一、第二号証等によれば、急ブレーキを踏んだ場合に存在するはずのスリップ痕は、本件現場には全く存在しなかったことが認められ、また、急ブレーキをかけた場合にもスリップ痕が残らないような特段の事情も当時存在しなかったことは本件証拠上明らかであるから、控訴人らの右主張は採用できない。

また、前掲各証拠によれば、海底で発見された自動車の運転席のドアのガラスは全開となっていて、一郎の遺体は自動車の中にはなく、自動車から数十メートル離れた場所で発見されたことが認められるが、同時に一郎はほとんど泳げなかったことも認められるのであるから、一郎において海への転落後、恐怖心から本能的に自動車からの脱出を図って右ドアのガラスを開けたものとも容易に推認できるので、右ドアのガラスが全開にされていた等の事実をもってしても、本件事故が一郎によって故意に惹起されたものであるとした前記推認の結果は、なんら左右されない。」と改める。

4  同四二頁八行目に「これを自殺と断定するところまではいかないものの、」とあるを削除する。

5  同四二頁一一行目末の「認定することはできず、」から四三頁三行目の「ならない。」までを「認定することはできない。」と改める。

第五  結論

以上によれば、控訴人らの本件各請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、控訴費用の負担については民事訴訟法九五条、八九条、九三条に則って、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邊昭 裁判官佐藤久夫 裁判官廣田民生)

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